Mix Dream

ごめんなさい本願寺さん

 あつい あつい。
 火がお寺を燃やしていく。
 こわい こわい。
 床も壁も血だらけで、まわりにはたくさんのお坊さんが倒れてて。

 でも、それ以上にこわいのが、目の前に。

「フフフ、鎮魂の読経はあちらであげていただきましょう……。骨は拾いませんよ」

 血しぶきと共にボクの足元に倒れたあなたの先に。

「探しましたよ、

 明智さんが、笑って―――。

 ああ。ああ。
 本願寺さん、本願寺さん。
 大丈夫だっていったのに。
 大丈夫だって、いってたのに。

 全然、大丈夫なんかじゃないじゃないですか。

「帰りますよ。あの方がお待ちです」

 差し出された明智さんの手。
 でもボクは悲しくて、怖くて、帰りたくなくて、動くことも声を出すこともできない。

「!?」

 しびれを切らしたのか明智さんは突進するようにボクめがけて駆け出すと、そのままかっ攫うようにボクを抱き上げた。

 一瞬の浮遊感。
 そして着地。

 そこは外で、今までいたお寺がごうごうと燃えてるのが見える。
 周りにはたくさんの足軽の人と、濃姫さんと、蘭丸くんと
 そして―――。



 後ろからの声にぎくりと体が震えた。
 体が強はる。
 振り向いて声の主を確認することすらできない。
 もっとも誰かなんてわかっているから確認する必要なんてないのだけれども。

 がちゃがちゃと甲冑の音がこちらに近づいて、後ろから伸びた手が僕の頬に触れた。
 おそるおそる手の主へと振り向く。
 目の前にいるのは思った通りの人だった。

「信長、さん……」
「余は貴様に言うたぞ」





「貴様が余の元から逃げると言うならば、その逃げ込んだ先を焦土と化してやろうと」

 ああ、そうだ。
 確かにこの人は、信長さんはそう言った。
 でもだからって信長さんの傍に居る訳にもいかなかった。
 だから何度も逃げ出して、その度に捕まって、今回も―――。

「それは?」
「え?」

 信長さんの視線の先。
 ボクが今着ている着物。
 袈裟。

「あ……これは、本願寺さんが―――」

 用意してくれたと言おうとして、言えなくなってしまった。
 信長さんが袈裟の前の合わせを掴んで、その下の肌が見えてしまうほどひっぱりあげてしまったから。

「の、信長さんっ!?」

 その行動に驚いてるボクに信長さんが言った。

「股を、開いたか」
「!」

 その言葉にびく、と体が震えた。
 信長さんの指がボクの鎖骨を触れている。
 それでわかった。
 見えていたのだ。
 袈裟の合わせの隙間から、昨夜本願寺さんにつけられた赤い跡が。

「脱げ」

 そう言って更にひっぱりあげられてしまう。

「待っ……!」
「お待ちを、信長公」

 さすがに慌てたボクを助けてくれたのは明智さんだった。

「この場で脱がしてしまうのは酷というものですよ。裸を見せたくはないでしょう? も、貴方も」
「………………」

 明智さんの言葉に信長さんは眉間に皺を寄せながらも掴んでいた合わせから手を離してくれた。
 ほっと一息吐いて明智さんを見る。

「あ、ありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。礼はまたいずれ、ねぇ……?」

 フフフと笑う明智さんの目に困惑してしまった。
 明智さんがボクに何を望んでいるのかは知っている。
 けれどボクではその望みを叶えてやることができないのだ。
 それでも、明智さんは執拗にボクに対して望みをかける。

(ああ、そういえば)

 明智さんに抱き上げられたままだ。 
 そのことに気付いて降りようと身じろぐ。
 けれど

「!」

 その途端、後ろから伸びてきた腕が巻きついてきて、移動させられて、反転して。
 明智さんからは放れられたけれど、かわりに今度は信長さんと密着して。

「あ……」
「帰るぞ」

 その場から歩き出す。
 降りようと身じろぐけれど、しっかりと腰に巻きついていて身動きがとれなくて。
 ボクは諦めて大人しくするしかなかった。





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