キン肉マン原作&アニメ沿い連載夢小説「Amadeus」

IF 〜devil general love〜

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 恐怖が、消えた。

「早く、来て」

 涙が、零れた。





 ホテルの最上階にあるロイヤルスイート。
 ベッド脇に座り込み、窓から外を見下ろす姿がある。
 それは、長い白銀色の髪の少女だった。

「また外を見ているのか」

 後ろからした声に振り向いた。
 そこにいたのは悪魔将軍だった。
 全ての悪魔超人の頂点。
 認識した少女の顔が怪訝そうに歪んだ。

「そう警戒するな。せっかくの愛らしい顔が台無しだ」

 悪魔将軍は愉快そうに笑っていた。

「……返してよ」

 搾り出すような、声。

のピアス返してっ!」

 ベッドから降りて立ち上がる。
 いつも肌身離さずつけているピアスはこの男に盗られてしまった。
 おかげで髪は本来の白銀色。
 普段、ピアスで髪を黒くしているとしては落ち着かない。

「それから、をおにいちゃんたちの所へ返してっ!!」

 ぎろり、と目の前の男を睨む。
 先程から震えていることを恐怖を悟られぬ為に。

「……無理だな」

 悪魔将軍から笑みが消えていた。

「おまえの本来の姿を歪めさせる物なんぞ必要ない。どうせ10年もすれば意味も無くなる物だ」
「…………」
「それに、私に負けた正義超人どもの元へ戻って何になる?」

 キン肉マンは悪魔将軍に負けてしまった。
 捕まっていたは必然的に悪魔超人側の手に落ちていた。

「…でも」

 試合したのはキン肉マンだけ。

「まだ、他のみんなだって―――」
「残りの正義超人にキン肉マン以上の超人がいるとでも?」

 キン肉マン以上の超人強度を誇る超人ならいる。
 けれど、だからといって悪魔将軍に勝てるとは思えない。

「私に勝てるとすればあの男だけだった。だが、あの男は負けた」

 冷たい目で言い放つ。

「キン肉マンは負けたのだ」

 そう。キン肉マンは負けてしまった。
 マットの上に倒れ込んだキン肉マンをすぐ側で見ていた。
 何も、出来なかった。
 ただ見ていることしか出来なかった。

 堪らず悪魔将軍から顔を背けた。
 けれど瞳は再び悪魔将軍を写した。
 悪魔将軍が後頭部を掴んで向かせたから。

「背けるな。私を見ろ」

 悪魔将軍に
 触れられて、いる―――

「ヤ、ダ…!」

 それが嫌で目を瞑って懸命に暴れる。
 けれど今度は右腕を掴まれた。
 びくり、と身が竦んだ。

「……まだ、私が恐ろしいか」

 右腕越しに悪魔将軍が見ている。

「無理も無いか。あの記憶を見たのだからな」

 が初めてこの男と出会った時、震えが止まらなかった。
 立っている事も出来ず膝をついた時、無理矢理立たせたのが悪魔将軍だ。
 自分の姿が映るその瞳に何かを感じた瞬間、見えてしまった。

 悪魔将軍の、時空を越え現れた未来のと出会った記憶を。
 その時の、に対する狂気ともいえる想いを。
 一瞬だったから殆ど解らなかったが、それでも恐怖を覚えるには充分だった。

 捕まれていた右腕を解放され、今度は顔に触れられる。

「何かするつもりは無い。今はな……」

 クク、と悪魔将軍が笑った。

「10年もすれば、おまえは美しく成長する。その時までは何もしない」

 紅い瞳が、じっ、と見つめている。

「この10年は準備期間だ。私がおまえの心を手に入れるための、な……」

 その瞳に映っているのはの姿だけ。

「他の誰かのものになど、させるものか。長い間待ち続けてやっと手に入れたんだ。逃がしはしない」

 だけを、見てる。
 だけを―――。

 手を離し、悪魔将軍は部屋から去って行った。
 はかくん、とその場に座り込んだ。
 もう立っていることも出来ない。
 けれど、体の震えは止まっていた。

 ―――ちゃんっ!!

 脳裏に、連れて行かれる時に見た正義超人達が浮かぶ。

 ―――落ち着けキン肉マンっ!!

 ―――放さんか、テリーッ!!ちゃんっ!待っててくれっ!!私は修行して、必ず助けに行くっ!!



 ―――助けに行くっ!!



 おにいちゃん

「早く、来て」

 でないと―――



 「あの人のものに、なっちゃう」



 あの人が怖かった。
 けれど、惹かれはじめてる自分がいた。





END


亮祐:管理人です。連載夢本編よりも先に将軍様初お目見えです。
翔:正確には別館が初だけどな。
亮祐:うん…。さて、今回は原作で将軍さまが勝っていたら…?というIFストーリーです。将軍さまとの出会いとか連載夢本編のネタバレしてますね。ピアスの存在なんかまだ本編でもふれてないよ。
翔:早くやれよっ!!
亮祐:オリンピック編が終わるまでにはやらないと…。最後、ちゃんは将軍様に惹かれてしまいます。これは長い間自分を求めていた上に、閉じ込めて誰にも渡さないという狂気的な想いに心が揺れ動いてしまったわけです。実はU世での狂ったように執着されることに欲情してしまうという設定の伏線になってたり…。ではこの辺で。


BGM:はばたいて鳥は消える/奥田美和子

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