最終回「機械帝国編」

 

いつもの生活が続いている野比家。

ママは怒りのびたは宿題をやらずに遊んでばかりいる。

ドラえもんはそんな生活をほほえましげに見つめていた。と、突然通信機に連絡が入る。相手は未来世界の全能統括者、マザーコンピュータその連絡で、ドラえもんは本来の自分の使命を思い出す。

 

実はドラえもんが来た未来社会は機械帝国が支配する世界で、人間達は虐げられ、レジスタンス活動を続けていた。そして、そのレジスタンス団『白の同盟』のリ―ダー、『修羅のノビール』こと片目の戦士ノビール・チギレールこそ、誰あろう野比のびたの成長した姿であった。

理工学博士でもあるノビール率いるレジスタンス軍団は機械帝国の心臓部であるマザーのハッキングを始めており、このままでは機械帝国の敗北は目に見えていた。このままでは機械帝国が危ない、と判断したマザーは、タイムマシンを使い現代にあるロボットを送り込む。

 

そう、それがドラえもんであったのだ。

 

のびたことノビールは15才より北欧独立戦争に参加し同時に機械工学の博士号を取る。それは、幼少の頃から運動神経・頭脳ともに人並み以下という環境の中で、彼がコンプレックスを克服すべく必死で努力を続けた結果であった。マザーはのびたを亡き者にしようとしたが、それはできなかった。なぜならマザーの基礎理論を作り上げたのもノビールであり、のびたの存在が消えるという事はそのまま機械帝国の消滅を意味するからだ。

 

そこでマザーは一計を案じた。のびたの頭脳はその素養のまま成長させ、その心に培われる筈の『反抗心・独立心』というものだけを削り取る作戦を。

そして、便利な道具を持った夢のロボット、ドラえもんが小学生ののびたの前に現れた。彼がのびたの夢をかなえてやると同時に、どんどんのびたの反抗心はなくなっていった。(ただし馬鹿になっては困るので『しゅくだいやれ』と言い続けていた事は周知の事実)

しかし、段々とドラえもんはのびたの事が好きになり始めていた。

否、人間の事を好きになり始めたというのが適切だろうか。

のびたはひみつ道具を使って様々な失敗をしたが、その度に少しづつ成長しているのがドラえもんは『嬉しい』と感じたのだ。それは、けして自らの血族を持つ事無い機械の彼が、初めて感じた肉親の情だったのかもしれない。

マザーからの通信は、のびた堕落化計画の打ち切りの通告だった。その代わり、別の時代で独自の理論を別の研究者に開発させる為、もう用済みののびた=ノビールを抹殺し、未来世界に帰還せよとの指令が届いた。

 

苦悩するドラえもん。

のびたは元気の無いドラえもんを元気付けようと色々な努力をする。

その全てがドラえもんにとってはいじらしくてしかたない。

つい涙を流すドラえもん。

 

ドラえもんは、のびたに全てを話すのだった。

話し終えたドラえもんに、のびたは笑ってみせる。

ドラえもんは僕の大事な友達だ、そのドラえもんがそんなに苦しんでいるのなら、とドラえもんに背中を向けるのびた。なんということか、のびたはいつの間にか友の為自らの命も惜しまない真の男に成長していた。

ドラえもんは再び滂沱の涙をながし、未来世界との通信機を自ら破壊するのだった。

第一の部下であるドラえもんの裏切りに、22世紀のマザーは激怒した。

そして、最強の刺客、ドラえもん5人集を送り込む。

 

1.バラえもん・フランス貴族のサーベル剣術を使うちょび髭の剣士。

2.コーラえもん・黒い。

3.アシュラえもん・手が8本ある。顔は3つある。

4.キングコブラえもん・へび。寒さが弱点。

5.マックスマーラえもん・化粧が得意。

 

最強の5人集を相手に、ドラえもんとのびた、仲間達の最後の戦いが始まった!!

しずかちゃんを人質に取られたドラえもんと仲間達は、遂に最終決戦地である冥凰島に辿り着く。

一対一の試合形式で5人集と闘うのだ。

 

第一試合 バラえもん vs 出来杉

第二試合 コーラえもん vs 小池さん

第三試合 アシュラえもん vs バギーちゃん(2代目)

第四試合 キングコブラえもん vs ピー助

第五試合 マックスマーラえもん vs ジャイ子

 

このメンツ構成の中にいつものメンバーがいない。

そう、ドラえもんとのびた率いる一軍(ジャイアン・スネオ)は、この隙に未来世界に乗り込み、マザーコンピュータを破壊すべく、ノビール=未来ののびたと協力し、中央指令塔に潜入していた。

ノビールは歴戦の勇者であった。だが、少し精神に異常をきたしていた。目の前で恋人(=しずかちゃん)を殺された為に、機械帝国に対して異常な憎しみを抱くようになったのだ。同時に、彼はレジスタンスになる前の記憶を全て無くしていたのだ。

 

死ね!死ね!虫どもめッ!虫ィィィィィィッッ!!』

 

彼の中にあるのは憎しみの記憶だけであった。マシンガンで機械帝国のむしがたロボットを破壊するノビール。そんな彼をみてのびたは、それが未来の自分の姿である事にショックを受ける。自分の中にもあのような凶暴な血が流れているのか、と。そんなのびたにドラえもんはそっと告げる。

未来を決めるのは君のチカラなんだ、自分の中のチカラを信じる事ができれば、運命なんて簡単に変わるんだよ、と。

そのころ冥凰島では、出来杉がバラえもんに刺し殺されていた。

 

(0?1)

 

中央管制塔には機械獣たちが集結していた。あまりの猛攻に、のびた達は一時撤退する。

ノビールは、敵の手際のよさを怪しみ、ドラえもんを疑う。彼から見ればドラえもんも憎き機械帝国の一部に過ぎないのだ。皆の制止を振り切って、ノビールはドラえもんを破壊しようとする。あえて抵抗しないドラえもん。

だが、ドラえもんを刺し殺そうとしたノビールのジャックナイフの前に、のびたが立ちふさがる。

ナイフはのびたの胸に突き刺さった。

 

「だめだよ…ドラえもんは僕たちの為に苦しんでるんだ…」

 

昔の自分の姿に真の勇気を見るノビール。このままではのびたが死に、同時にこの未来世界そのものが消滅する。この世界では四次元ポケットが使えない上に、タイムマシンもマザーの干渉を受け停止している。

一刻も早くマザーを倒すしかない。

だが、ノビールは放心状態であった。

そのころ冥凰島では、小池さんがコーラえもんをラーメン責めにしていた。

 

(1?1)

 

マザーのあるセントラルタワーへの道は、最強の敵達によって埋め尽くされていた。

マザーの命令電波を受けて動く、むしロボットの軍隊である。

途中の戦闘で、ジャイアンは両足に重傷を負う。

ノビールの仲間達、『白の同盟』の戦士達も次々に死んで行く。

スネオは恐怖し、泣き叫ぶ。

 

「もう帰ろうよジャイアン!!本当に死んじゃうよ!!」

 

しかし、剛田武はそんなスネオを殴る。

のびたが、ドラえもんが必死に戦っているのに、俺達はなにもできないというのか、と。

スネオはまだ俯いているばかりだ。

そしてジャイアンは高らかに歌う。皆を勇気づける為に。

 

『ホゲ?』

 

その時。奇跡だろうか、むしロボット達の動きが止まった。

驚くのびた一行。ジャイアンの歌声とマザーコンピュータの電磁波が共鳴しむしロボットへの命令系統が一瞬麻痺したのだ。ある程度の時間ならこの大群を足止めできるかもしれない…。

突然、ジャイアンが皆をドアの向こうに突き飛ばす。

ドアは堅く閉ざされた。

 

『みんな先に行けッ』

 

ジャイアンは皆を先に進ませる為みずから捨て石となるつもりであった。

 

『ジャイアン!!』

 

みなドアにすがる。ドアの向こうからは、いつものジャイアンの『ホゲ?ホゲ??ホゲ???!!』という必死の歌声が響く。それは、まるでワーグナーのシンフォニーの如く。動きを止めている虫たちも、まるでそれに聞き入っているかのようだ。喉から血をだしながら、剛は歌いつづけた…。

 

『みんな行こう!!

 

僕らがいつまでもここにいたら、ジャイアンが何の為にあそこで頑張ってるのかわからないよ!!』

 

声を上げたのは、泣いていたスネオだった。

皆、涙をこらえ、エレベーターに向かう。

エレベーターは動き出した。

背後で、歌声が止まった。

ジャイアンは、一瞬ののち、細切れの肉片と化した。

そのころ冥凰島では、バギーちゃん(二代目)がアシュラえもんに解体されていた。

 

(1?2)

 

ノビールは苦悩していた。

自分は、のびたなのである。

今、幼い頃の自分が死にかけている。

そして、親友であったというジャイアンは死んだ。

過去が、すさまじい勢いで回天している。この未来世界自体の存在も歪み始めている筈だ。

だが、自分がここにいるという事は、幼いのびたは死なないという事だろうか。

このタイム・パラドックスの渦の終末はどこなのだろうか。

自分の失われた記憶に何があるのだろうか。

4人をのせたエレベーターは最上階につこうとしていた。

その頃冥凰島では、決戦が佳境に入っていた。

 

『ぴー』

 

『シャアー』

 

蛇が恐竜にかなうわけが無い。

ピー助がキングコブラえもんを飲み込み、これで2?2。

勝負の行方はマックスマーラえもんとジャイ子との戦いに持ち越された。

しかし女らしさと無縁であるジャイ子にマックスマーラえもんの洋服攻撃も通用しない。

まるで兄が乗り移ったかのような豪快な一撃で、マックスマーラえもんは吹き飛んだ。

勝負は、3?2でドラえもん復活キャラチームの勝利に終わった。

しかし、勝負に負けると自動的に爆発を起こすような仕掛けがドラえもん5人衆には仕掛けられていた。

現代の水爆の1兆倍の質量を持つ爆弾が、5個同時に誘爆する。

冥凰島のあるインド山中(彼らはその位置を知らされていない。

謎のヘリコプタ―に乗せられてここに来た)を中心にユーラシア大陸が吹き飛んだ。

冥凰島はもちろん吹き飛んだ。

と、同時に空間に歪みが生じ、『時震』が起こった。

ドラえもんチームはそれぞれ、さまざまな時代に吹き飛ばされてしまったのである。

小池さんは古代中国に吹き飛んだ。

そこにはラーメンが無かったので、小池さんは我慢できず、自分でラーメンを作った。

なんと、ラーメンの発明者は小池さんだったのだ。

この後小池さんは中華料理の大家として名を馳せるのだが、それはまた別の話。

ピー助は奇跡的にもとの世界に帰れた。よかったね。

その後恐竜界の帝王となるのだが、それはまた別の話。

ジャイ子は14世紀のフランスに飛んだ。

そこで、天から降りてきた乙女として、フランス革命戦争に参加した。

彼女は自分の名を『ジャイ子』と言ったのだが、フランス人には発音しにくかったらしく、どこかで『ジャンヌ』と歪んで伝わった。

…というわけで彼女はジャンヌ・ダルクになったのだが、それはまた別の話。

遂にマザーコンピュータと対峙するノビール一行。

もうほとんどのびたは虫の息だ。

マザーコンピュータにマシンガンを向けるノビール。

その時。

マザーの中枢部分が開いた。そこには、なんとしずかちゃんが!!

その時、ノビールは全てを思い出した。

しずかちゃんを殺したのは、のびたの作ったロボットだったのだ。

理工学博士になったのびたは北欧独立戦争で人々が死んでいく事に深い悲しみを感じ、機械兵士を作ろうとした。そして、そのプロトタイプ第一号が暴走し、そばにいたしずかちゃんを殺した。狂気にとりつかれたのびたは、しずかちゃんの記憶を持ったロボットを作ろうとした。

そしてできたのがマザーコンピュータだった。

そうだ、そして彼が作った第一号の戦闘機械兵士こそ。

もともと戦争を終わらせようとして作った平和の色、青。

過度な残虐性を持たせぬ為にデザインした、球体。

どんな武器だろうと装備できるような、自由変形物質製の手。

彼が幼い頃にみた、あの親友の姿。

そう、目の前にいるドラえもんであった。

ノビールは全てを思い出したのだ。

そして、目の前にいるしずかちゃんは現代でドラえもん5人衆が吹っ飛んだときの時震で時空を超え、姿は違えど同じ魂を持つマザーに引き寄せられ、一体化してしまった現代のしずかちゃんだという事を知った。もともと、ドラえもんが現代で幼いのびたにであった事が、このタイムパラドックスの渦の原因であったのだ。

 

このまま、こんな悲惨な歴史を繰り返すわけには行かない。

 

ノビールは決意した。

この世界を消す事で、歴史の流れを正常に戻そうと。

そして、ノビールはマザーに銃を向け、自分の歪んだ愛情の結晶を破壊する。

マザーの干渉が消え、タイムマシンが動くようになった。

機械帝国は壊滅していく。

そこかしこで起こる爆発。

しかし、まだ一つ残っていた。

ドラえもんが。

ノビールは、ドラえもんに銃を向ける。

ドラえもんは、全てを知っていた。そして、理解していた。

最後にドラえもんは、そっとのびたの顔に手を当てる。

『未来は、運命は自分の手で掴むものなんだ』と、その眼が語っている。

のびたとスネオをのせたタイムマシンが、現代に向けて飛び立つ。

二発の銃声が響き…。

 

現代。

 

何事も無かったかのように日常がまた続いている。

ドラえもんは当然、現実の社会にはいない。

死んだ筈のジャイアンや出来杉も、普通の生活を送っている。

のびたは、奇跡的に命をとりとめ、

しかし、ドラえもんそのものの記憶をうしなっていた。

だが、なんの不都合も無い。

もともとドラえもんなんていない世界なのだ。

病院で眼を覚ましたのびたの手には、金色の鈴が握られていた。

のびたは、その鈴がなんなのか、思い出す事はその後二度と無かった。

決して、思い出す事は。

 

時の旅人として一人、スネオは全てを知っている人間として残された。

なぜか、元の世界には別のスネオがいたためだ。

一人だけ記憶の残っているスネオに、「時」という偉大な力が干渉した為であろうか。

スネオはタイムマシンを降り、破壊する。

 

そこは、昭和初期の日本。

そこでスネオは、モトオという友人と知り合う。

スネオは当然全てを話しはしない。

ただ、ときどき面白おかしく元いた世界の話をするのみ。

二人はいつしか、その世界をマンガにし始めた。

忘れはしない、あの頃の友人達。

勇敢に戦い、勇敢に死んでいったジャイアン。

いつもやさしかったしずかちゃん。

いじめられてはいたけれど、たまに真の強さを発揮したのびた。

そして、不思議で悲しい運命を背負った猫型ロボット、ドラえもん。

忘れる筈はない。

彼のペンは、いきいきと昔の友人達をつづった事だった。

そして、時は経ち、二人は青年になり、漫画家になった。

そのペンネームは・・・。

 

おしまい・・・