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最終回その3:さようなら、ドラえもん
[初出:「小学三年生」昭和49年3月号]
ジャイアンに追われ、何とか命からがら家に逃げ帰ってきたのび太。
のび太はドラえもんに言う。
「あれ貸してよ。ほら、いつかつかったやつ。けんかに強くなるの」
しかし、ドラえもんは冷たく言い放った。
「ひとりでできないけんかならするな!」
ドラえもんの表情は、妙に沈んでいる。
「おいどうしたんだよドラえもん」
と、のび太が気にかけると、ドラえもんは打ち明けた。
「こないだから………言おう言おうと思ってたが……」
「帰る? 未来の世界へ!」
明日の朝、なんとドラえもんが未来の世界へ帰ってしまうという。
のび太は仰天して「なんとかして」と泣きつくが、そんなのび太にママとパパは言った。
ママ「ドラちゃんにはドラちゃんの都合があるのよ。わがまま言わないで」
パパ「人にたよってばかりいてはいつまでたっても一人前にはなれんぞ。男らしくあきらめろ」
その晩、のび太はドラえもんといっしょの布団に入って寝る。
しかし、のび太もドラえもんもどうしても眠れない。
そこでドラえもんとのび太は、「朝までお話しよう」と、“眠らなくても疲れない薬”を飲んで、いっしょに外へ散歩に行くことにした。
外はお月さまがきれいだ。
ドラえもんは言う。「のび太くん……本当にだいじょうぶかい?」
「何が?」とのび太。
「できることなら……帰りたくないんだ。きみのことが心配で心配で……。ひとりで宿題やれる? ジャイアンやスネ夫に意地悪されてもやり返してやれる?」
心配するドラえもんに、のび太は答えた。
「ばかにすんな! ひとりでちゃんとやれるよ。約束する!」
その言葉を聞き、ホロリとするドラえもん。ドラえもんはのび太に涙を見せまいと、
「ちょ、ちょっとそのへんを散歩してくる……」と言って走り去った。
「涙を見せたくなかったんだな。いいやつだなあ」
ひとりになったのび太は、いつもの空き地の土管に腰掛けた。
すると、そこに眠りながらフラフラと空き地の前を通っていく男の姿があった。
ジャイアンだ。ジャイアンは、ときどき寝ぼけて夜中に散歩をするくせがある。
…とその時、ジャイアンはハッと目を覚ました。
「だれだっ。そこでにやにやしてるのは! なんだのび太か。 おれが寝ぼけてるところをよくも見たな。許せねえ!」
ジャイアンはのび太の胸ぐらをつかむと、思わずのび太は叫んだ。
「わあっ、ドラ………」
しかし、ここでドラえもんを呼ぶわけにはいかない。
のび太は口に手を当てた。
のび太はジャイアンに言った。
「けんかならドラえもんぬきでやろう」
「ほほう……えらいな、おまえ。そうこなくっちゃ」
ジャイアンはボカッと一発、のび太を殴る。
完全に吹っ飛ぶのび太。
一方、ドラえもんは、さっきのび太に助けを呼ばれたような気がしてならない。
心配になったドラえもんは、町中を走り回ってのび太を探すが、見つからない。
先に帰ったのかなと思って家に帰ってみたが、やはりのび太はいなかった。
空き地では、ジャイアンはのび太を殴り続けていた。
ボロボロになって完全にのびてしまったのび太。
「どんなもんだい。二度とおれにさからうな」
しかし、のび太はしつこくムクッと起きあがり、ジャイアンに言った。
「待て! まだ負けないぞ」
「なんだおまえ。まだなぐられたりないのか」
「何を。勝負はこれからだ」
さらにガツンと殴られるのび太。
ドラえもんは、家でのび太の帰りを待っていた。
しかし、まだ帰ってこない。
あれから既に一時間もたっている。
「どこで何してんだ。最後の晩まで人に心配かけて」 とドラえもんはのび太のことが気が気でならなかった。
さらにジャイアンはのび太を殴り続け、再びのび太はダウンする。
ジャイアンは息を切らしながらのび太に言った。
「ふう、ふう。これでこりたか。何度やっても同じことだぞ。はあ、はあ、いいかげんにあきらめろ」
帰ろうとするジャイアン。
しかし、のび太は最後の力でジャイアンの足にしがみついて言った。
「ぼくだけの力できみに勝たないと……ドラえもんが……安心して……帰れないんだ!」
「知ったことか!」
更にのび太をぶん殴るジャイアン。
その時、ドラえもんは、まだ家でのび太の帰りを待っていた。
しかし、のび太は帰ってこない。
「ただごとじゃないよ、こりゃ」と不安になったドラえもんは、再び外へのび太を探しに行った。
すると……空き地に、ボロボロになりながらジャイアンと戦っているのび太の姿があった。
のび太は帰ろうとするジャイアンをしつこくつねっている。
「いてて、やめろってば。悪かったおれの負けだ。許せ」
ジャイアンは逃げ帰った。
ドラえもんは、のび太にかけよった。
のび太は全身アザだらけの姿でドラえもんに言う。
「勝ったよ、ぼく」
のび太は、ドラえもんの肩に抱かれながら言った。
「見たろ、ドラえもん。勝ったんだよ。ぼくひとりで。もう安心して帰れるだろドラえもん」
家に帰り、布団に入って寝るのび太。そしてその寝顔を、涙を流しながら見つめるドラえもん。
翌朝、のび太が目を覚ますと、すでにそこにはもうドラえもんの姿は無かった。
ママ「ドラちゃんは帰ったの?」
のび太「うん」
ガランとしてしまった自分の部屋で独り、座りながらのび太はつぶやく。
「ドラえもん きみが帰ったら部屋ががらんとしちゃったよ。でも……すぐになれると思う。だから………心配するなよドラえもん」
おわり