最終回その1:(タイトルなし)

[初出:「小学四年生」昭和46年3月号]

 ある晩、のび太が目を覚ますと、知らない大勢の人間がのび太の部屋のカベから出てきて、カベの中へと消えていった。

 驚いたのび太は、次の日ドラえもんにその事を伝える。

 しかし、ドラえもんはのび太の話をポーッとしてまるで聞かない。

 最近、のび太の家では変なことばかりが起こる。

 家のカベに落書きがいっぱいあったり、パパのライターなど、いろんなものがなくなったり…。

「とうとう、このへんにもあらわれたか」とつぶやくドラえもん。

 そんな中、ドラえもんの座っている横のカベから子供がでてきて、おやつのドラやきをヒョイと取り、子供は再びカベの中へ消えていった。

 それを見てのび太はビックリ仰天。

「お、おいっ、み、み、見たかいまの」

 ドラえもんは相変わらずボンヤリした表情で「あ、うん……。」

「あ、うん? 言うことはそれだけ?」と困惑するのび太。

「のび太くん!!」ドラえもんが突然叫んだ。

「もしも、もしもぼくがいなくなっても、きみひとりで、やっていけるかい?」

「そんなこと、考えられないね。きみがいなくちゃ、ぼくはだめなんだ。」とのび太。

「なさけないこと言うなよ。じつは…」

 ……とドラえもんが話を切り出したその時、またカベの中から何人かの人間が出てきた。

「まっぴるまからこんなとこへ。ひと目につかないように回るのがきそくだぞ!」とドラえもん。

状況の掴めないのび太。

「だれだい、この人」とドラえもんに尋ねると、

「しつれいしました。私はこういう者で」先頭の男が名刺を差し出した。

<<フジヤマ時間旅行株式会社/一級ガイド カバキチ・カバタ>>

つまりこの人達は、未来の世界から昔の世界を見物するためにやってきた時間観光旅行の人らしい。

「みなさま、これが古代日本の民家です。ご自由にごらんください」とカバタが言うと、ドヤドヤと未来からの観光客がやってきて、のび太の家を荒らしはじめた。

「めいわくだ!かえってよ!」と叫ぶドラえもんとのび太。

 しかし、観光客一行はのび太の家に記念の落書きをしたり、パパの服をお金で勝手に持ち帰ったり、のび太の部屋のノートを勝手に見たり…と迷惑三昧を繰り返す。

 ドラえもんとのび太は、のび太の家から観光客一行をおっぱらおうとするが、観光客は四次元移動で動いているのでカベの中に逃げ込んで上手く追っぱらえない。

 すると、しまいにはのび太の家にピストルを持った未来の全世界指名手配の殺し屋までやってきた。

 タイムパトロールに追いつめられ、この世界に逃げてきたという。

「こうなったら、きさまらをみな殺しに……」 と男が言った瞬間、タイムパトロールがやってきて、バズン!と銃でこの男をやっつけた。

 そして観光客は皆帰り、ようやくのび太の家は静かになった。

「やっとしずかになったよ」とドラえもん。

「時間観光旅行なんてめいわくだァ。なんとかしろ」とのび太。

 するとその時、セワシがのび太の机の中からやってきた。

「それはもう心配いらないよ」と言う。

 セワシの話によると、「時間旅行きせい法」という法律が、未来の世界で決まったらしい。

 さっきの観光客のようにタイムマシンで旅行する人がふえてきて、昔の人に迷惑をかけることが多くなったので、今後一切の時間旅行が禁止されることになったのだ。

 もちろん、ドラえもんも未来の世界に帰らなければならない。

「そ、そんな!! いやだ! ぼくは帰さないぞ!!」と叫ぶのび太。

 それに対し、ドラえもんは「男だろ!これからはひとりでやってくんだ。きみならやれる!!」 と励ました。

 ドラえもん「ぼくが来たころからみると、ずっとましになっているからね」

 セワシ「そう、元気になったし、からだも強くなった。頭もすこーしよくなった。」

 するとその時、のび太の机の引き出しからプオ〜、プオ〜という音が鳴り響いた。ひきあげの合図だ。

「いそがないと」とセワシ。

「じゃ…。」とガッチリ握手するドラえもんとのび太。

 ドラえもんはセワシに連れられ、机の引き出しの中に入ると泣き叫んだ。

「いやだァ。のび太くんとわかれるのいやだあ」

「ドラえもん!!」

 セワシとドラえもんは、机の引き出しの中に消えていった。

 のび太は机の引き出しをながめながら、「ドラえもん…」とつぶやく。

 ラスト、のび太のモノローグ。

「つくえの引き出しは、ただの引き出しにもどりました。でも……、ぼくは開けるたびにドラえもんを思い出すのです。」

 

おわり